当センターで、低侵襲ロボット(ダヴィンチ)が2023年9月に導入されました。既に昨年末までで、15例の症例を実施し稼働に乗っています。対象診療科としましては、消化器外科・産婦人科・泌尿器科となります。診療報酬の適用も拡大が順次なされてきており、当センターでも適用を増やし広く地域の皆様に、認知いただき貢献して参りたいと思います。
手術支援ロボット「ダヴィンチ」の魅力
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手術支援ロボット「ダヴィンチ」の特徴
患者さんに優しい低侵襲手術
ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)は、低侵襲手術である内視鏡外科手術(腹腔鏡手術・胸腔鏡手術)の限界点を克服する機能があります。従来の内視鏡外科手術では直線的な鉗子のため可動域に制限があり、骨盤の底や胸腔内などの狭い空間では骨や臓器に当たり自由な操作ができないことがありますが、ロボット支援手術ではその関節機能により、最適の方向に切開や剥離を進めることができます。また、高精細の3D画像、拡大視効果により安全に手術を進めることができます。
患者さんにとってメリットの大きい手術
ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)は、通常の内視鏡外科手術同様に患者さんの体に小さな穴を開けて行う手術ですが、より精緻な手術が可能で術後の合併症を減らし、入院期間が短くなるなどのメリットがあります。
特徴① 少ない出血
高精細の3D画像のもと、精緻な手術が可能で開腹術に比べると、術中の出血量が極めて少なくなります。
特徴② 小さな傷口
術式により異なりますが、1㎝前後の傷が、5~6か所です。
溶ける糸で縫うので抜糸も必要ありません。
特徴③ 術後の痛みが少ない
開腹術に比べると傷が小さいので、傷の痛みは少なくなります。
特徴④ 合併症の軽減と機能温存
関節機能を持つ鉗子操作で精緻な動きにより術後の合併症を減らし、重要な神経などを温存することで機能温存ができる可能性が期待されます。
特徴⑤ 入院期間の短縮
術後の回復が早く、入院期間の短縮が期待されます。
医師の負担も軽減する手術
「ダヴィンチ」の優れた機能により、術者の負担も減らすことが可能となります。
- 機能① 高精細のリアルな3D画像で術野を観察可能
- 機能② 最大約15倍に拡大視が可能
- 機能③ 関節機能を持つ自分の手指のように動かすことが可能な鉗子
- 機能④ 手振れ防止機能があり、安定した視野を維持できる
- 機能⑤ スケーリング機能で大きな動きも小さな動きに操作速度をコントロール
術者はサージョンコンソールと呼ばれる機械に座り、遠隔操作により手術を行うため、肉体的な負担も軽減することが可能です。
保険の適用
2022年までに多くの術式が保険適用でロボット支援手術が行えるようになりました。
今後も、さらに適用の拡大が期待されます。
ロボット支援手術が保険適用となっている疾患・手術
診療科 | 疾患 | ロボット支援手術 |
---|---|---|
泌尿器科 | 前立腺がん | 腹腔鏡下前立腺全摘術 |
腎がんなど | 腹腔鏡下腎摘術など | |
膀胱がんなど | 腹腔鏡下膀胱摘出手術など | |
副腎腫瘍など | 腹腔鏡下副腎摘出術など | |
消化器外科 | 食道がん | 胸腔鏡下食道切除術など |
胃がん | 腹腔鏡下胃切除術など | |
直腸がん | 腹腔鏡下直腸切除術など | |
結腸がん | 腹腔鏡下結腸切除術など | |
膵腫瘍など | 腹腔鏡下膵体尾部切除術など | |
肝腫瘍など | 腹腔鏡下肝切除術 | |
婦人科 | 子宮腫瘍など | 腹腔鏡下子宮全摘術 |
子宮脱など | 腹腔鏡下仙骨膣固定術 | |
呼吸器外科 | 縦隔腫瘍など | 胸腔鏡下胸腺摘出術など |
肺癌など | 胸腔鏡下肺切除術など | |
心臓血管外科 | 弁膜症 | 胸腔鏡下弁形成術 |
耳鼻咽喉科 | 咽頭がんなど | 鏡視下咽頭悪性腫瘍手術 |
喉頭がんなど | 鏡視下喉頭悪性腫瘍手術 |
2024年2月現在、総計29術式が保険収載され、保険適用下に手術可能です。
ただし施設条件、術者条件により、施行できない場合があります。
通常の腹腔鏡手術とロボット支援との比較
胃がんに対するロボット支援手術は、通常の腹腔鏡手術に比較して術後合併症の頻度が少なく、患者さんの肉体的負担を軽減することができます。
胃がんに対するロボット支援手術は通常の腹腔鏡手術に比較して
ロボット支援手術 | |
手術時間 | やや長いか同等 |
術中出血量 | ほぼ同等 |
術後合併症 | 少ない |
入院期間 | ほぼ同等 |
社会復帰 | ほぼ同等 |
技術の難易度 | 開腹に近い |
手術の操作性 | 良好 |
安全な導入
手術支援ロボット「ダヴィンチ」はすぐれた医療機器ですが、新規医療技術であり安全に取り扱うために、操作する術者とサポートするスタッフが、安全な導入を心がけてきました。
日本内視鏡外科学会の指針に基づき、準備を行い、トレーニングを積んだ上で、導入しています。
写真:シミュレーター
当院ではシミュレーターも備え、実際の患者さんでの手術を行うまでに、十分にトレーニングを積み、安全な導入に心掛けています。
手術支援ロボット「ダヴィンチ」の機能
1.手術支援ロボット「ダヴィンチXi」
当院では「ダヴィンチ」の中でも、最も高位の機種である「ダヴィンチXi」を導入しています。「ダヴィンチXi」はサージョンコンソール、ペイシェントカート、ビジョンカートの3つの機器から成り、術者はサージョンコンソールに座って、操作を行います。助手が清潔操作でペイシェントカートのロボットアームの鉗子の入れ替えなどを行います。
2.サージョンコンソール
術者はサージョンコンソールに座り、ビューポートをのぞきこみ、3Dモニターを見ながら、両手足を使って手術を行います。サージョンコンソールは飛行機のコックピットのようなイメージで、鉗子操作、カメラ操作、モニター画面の切り替え等、ほぼすべての操作を術者一人で行うことが可能です。
サージョンコンソールの中央・下部にあるマスターコントローラーに両手の親指、示指ないしは中指を差し込んで動かすと、即座に忠実にペイシェントカートの鉗子が同じ動きをし、手術を行うことができます。
3.ペイシェントカート
ペイシェントカートには4本のアームがあり、3本の鉗子と、カメラを取り付けます。サージョンコンソールのマスターコントローラーからの指令を受けて、鉗子が動き、手術を行います。
助手は、清潔操作で、鉗子の交換やガーゼなどの挿入を行います。
4.ビジョンカート
カメラコントロールユニット(CCU)や電気メス等のジェネレーターが収納されています。また、上部にはタッチスクリーンモニターが装備され、スクリーン上に指で線などを描くことが可能で、術者に直接、モニター上でも情報を伝えることができます。
モニター上部にはマイクがあり、患者さんから離れたサージョンコンソールにいる術者とのコミュニケーションを取りやすくしています。
5.フィルター機能(手振れ防止)
術者の手指の震えが鉗子やカメラに伝わらないように手振れを防止する機能で細かい血管の処理や神経の剥離など、繊細な手技で、安定した視野のもと震えなく正確に操作することが可能となっています。
6.モーションスケーリング機能(大きな動きを小さな動きに)
術者の動きを縮小して鉗子に伝える仕組みで2:1、3:1、5:1の3種類から選ぶことができます。狭い空間での手技や血管の縫合などの繊細な手技に有用です。
7.ズーム機能(拡大視)
術者の判断で、術者自身のマスターコントローラー操作でズームイン、ズームアウトができ、拡大視野のもと、細かい手技を行うことが可能です。
8.Firefly機能(ICG蛍光観察)
サージョンコンソールのパネル操作で簡単に通常観察からICG蛍光観察に切り替えることができ、臓器の血流評価やリンパ流の評価が可能です。
9.Tile Pro機能
サージョンコンソールのパネル操作で簡単に画面分割により術野情報以外に他の画像情報をリアルタイムに得ることが可能です。
診療科の取り組み
消化器外科
甲南医療センター 消化器外科
甲南医療センター消化器外科は2017年から新体制となり低侵襲手術や高難度手術まで幅広く対応してきました。特に腹腔鏡下手術に力を入れており、手術症例の80%以上が腹腔鏡手術となっています。
当科は日本内視鏡外科学会技術認定医が4名在籍しており、高い診療レベルを維持するとともに後進の指導にも当たっています。
このたび2023年に手術支援ロボット(Da Vinci Xi)を導入し、直腸手術、膵手術、ヘルニア手術を実施できる体制が整いました。(日本内視鏡外科学会ロボット支援下手術認定プロクター1名在籍、Da Vinci console surgeon 3名在籍)
ロボット支援下手術は腹腔鏡下手術をさらにすすめたものです。高精細な画面で、自在に動かすことができるアームを用い、手ぶれを補正する機能などを有しており、安全かつ質の高い手術の実施が可能となります。
このような最先端の治療を甲南医療センターでは提供することができます。
現在は下記の疾患を対象としておりますが、今後も対象術式を増やすよう取り組んでいます。(胃癌、結腸癌、肝癌など)
現時点で対象となる疾患
- 直腸癌
- 直腸腫瘍
- 膵癌
- 膵腫瘍
- 鼠径ヘルニア
各術式の特徴
√ ロボット支援下直腸手術
直腸が存在する骨盤内は非常に狭く手術操作に制限が加わります。ロボット支援下手術では繊細な鉗子操作、3Dの安定した視野により安全かつ精度の高い手術が実施できるメリットを有しています。当院では2023年にロボット支援下直腸手術を導入しました。直腸がんに対する手術アプローチとしてロボット支援下手術を第一選択と考えています。
√ ロボット支援下膵切除術
肝切除や膵切除といったいわゆる高難度手術の領域ではロボット支援下手術はまだ一般的とまでは至っていません。厳格な施設基準や術者基準のもと実施施設は限定されています。当院では2023年からロボット支援下膵体尾部切除術を導入しています。
ロボット支援下膵切除では高精細な画像と安定した術野展開、自在に展開できるアーム操作により精度の高い手術が実施可能となっています。合併症発生率低減や、術後早期回復などが報告される優れた術式となっています。
√ ロボット支援下ヘルニア修復術
鼠径ヘルニアは鼠径部の腹壁の筋膜が脆弱になることにより発生する疾患で治療法は唯一手術のみです。最近は腹腔鏡を用いたヘルニア修復術が広く実施されていますが、ロボット支援下ヘルニア修復術では3Dでの良好な視野と自由に動く多関節機能を有した鉗子によりさらに精緻な手術操作が可能となります。ロボット支援下手術のメリットとしては最も痛みの少ない方法と言われています。
将来的には保険適応となる見込みですが、現時点では保険診療としては認められておりませんので自費診療での扱いとなります。
産婦人科
1.ロボット支援手術は骨盤腔の手術に適しています
骨盤腔深部の操作や大血管周囲の繊細かつ正確な操作が必要な婦人科手術に適しています。世界的にみてもロボットは産婦人科手術で多く使用されています。近年、国内国外で行われたロボット手術(ダヴィンチ手術)のうち約30%を婦人科手術が占めています(図1)。このことは、ロボット手術と骨盤腔の深部に病巣がある婦人科疾患との相性の良さを示しています。
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2.甲南医療センター産婦人科におけるロボット手術対応疾患(図2、3)
ロボット手術は子宮筋腫、子宮腺筋症など良性子宮腫瘍に対する子宮全摘術、初期の子宮体癌に対する子宮悪性腫瘍手術が適応で、基本的に従来の腹腔鏡下の子宮全摘術や子宮悪性腫瘍手術と同等の適応です。現在月曜、木曜に専用初診外来(子宮筋腫初診)を設けております。
子宮脱など骨盤臓器脱に対するロボット支援下仙骨腟固定術についても現在導入を検討中です。
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3.子宮体癌のロボット手術について(図4、5)
子宮癌には子宮頸癌と子宮体癌があります。従来から子宮癌といえば子宮頸癌をさすことが多く、罹患率も子宮体癌に比べ子宮頸癌は高く推移してきました。しかし以前より欧米においては子宮体癌の罹患率が高く、また本邦においても近年子宮体癌の罹患率が増えた結果子宮頸癌と罹患率が逆転しました。これは、動物性脂肪摂取を好んだり、肥満の増加、晩婚化、少産化などの日本人のライフスタイルの変化が原因と考えられています。
一方で、子宮体癌は主に不正出血などの主訴で初期に発見される頻度が高く、初期で適切な治療を行えば比較的予後の良い癌です。進行期初期のIA期はロボット手術の適応があり体に優しく、社会復帰も早い低侵襲手術が可能です。子宮体癌ロボット手術施行は神戸市内で当院が3施設目となります。好発年齢である閉経期(40歳代から60歳代)で不正出血のある場合は一度当院などの産婦人科受診をお勧めします。
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4.受診のお申し込み
子宮筋腫などの腫瘍を指摘され当院でのロボット手術ご希望の方は、主治医の先生から当院患者サポートセンターへ受診をお申し込み下さい。現在月曜、木曜に専用初診外来(子宮筋腫初診)を設けております。当院へ初診で受診することも可能です。
子宮体癌の好発年齢である閉経期(40歳代から60歳代)で不正出血のある場合は、近年本邦でも罹患率が増えている子宮体癌の可能性がありますので、一度当院や近隣の産婦人科受診をお勧めします。もし初期で見つかり適切な治療がされれば比較的予後の良い疾患ですので早めの受診をご検討下さい。
- お申し込み・お問い合わせ先
- 甲南医療センター 患者サポートセンター
- 平日 9:00~19:00 / 土曜日 9:00~13:00
- 電話:078-851-0122(直通)
- 【予約】FAX:078-854-4158(直通)
泌尿器科
coming soon
呼吸器外科
coming soon
耳鼻咽喉科
coming soon
「ダヴィンチ」Q&A
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どのような手術でもロボットで行うことができますか?
どのような病気がロボット手術でおこなうことができますか?すべての手術がロボットで行えるわけではありませんが、2024年3月時点では、6診療科の29術式が保険で行うことができます。(参照:保険の適用の項)
病気としてはがんなどの悪性腫瘍に対する手術が多いですが、診療科によっては良性疾患でも行われています。また、保険適用外でも自費等で行っている手術もあります。各診療科にご相談ください。(例:鼡径ヘルニアに対するロボット手術) -
ロボット手術のメリットはどのようなところにあるのでしょうか?
患者さんにとってのメリットとしては、開腹術や通常の腹腔鏡手術に比べ、術中出血量、術後合併症が少なく、術後在院日数も短くなるという報告があります。また、術者側のメリットとしては、関節機能、拡大視、高精細の3D画像などの機能により、座ったままで手術ができ、術者の負担を減らすことができます。(参照:手術支援ロボット「ダヴィンチ」の特徴)
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ロボット手術の安全性は、どうなのでしょうか?
ロボットも機械であり、100%安全ということはできませんが、システムエラーの報告は極めて低く、当院でも患者さんに不利益をもたらすような事故の報告はありません。また、手術に携わるスタッフは緊急時対応の訓練を行い、安全管理に努めています。
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ロボット手術の欠点は?
欠点としては触覚がないことが挙げられますが、慣れにより、視覚でカバーすることができるようになります。また、通常の腹腔鏡手術に比べ、ラーニング・カーブは短いと言われていますが、慣れるまでは、ロボットの準備等で、全体の手術時間が長くなります。
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ロボット手術の費用はどれくらいかかりますか?
通常の腹腔鏡手術よりも高くなるのでしょうか?ロボットそのものは高額な医療機器ですが、保険適用されているロボット手術は、通常の腹腔鏡手術、胸腔鏡手術と同じ料金です。(学術的に術後合併症の軽減が認められたロボット支援下の胃癌手術のみ、若干、腹腔鏡手術よりも高くなっていますが、入院期間が短くなる分、その差は少なくなっています)
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ロボットが自動で手術を行うのでしょうか?
いいえ。
今のところ、術者の動きを正確に、迅速に伝えてロボットが手術を行うシステムで、ロボットが自分で考えて、自動で手術を行っているわけではありません。 -
ロボット手術は、外科医であれば誰でもできるのでしょうか?
いいえ。
熟練した技術が必要であり、各メーカーの指定したトレーニングを受け、認定を受ける必要があります。また、日本内視鏡外科学会の指針に基づく、術式毎の術者条件、施設条件が定められています。
低侵襲ロボット手術センター 黒田大介
2023年4月に低侵襲ロボット手術センター長として甲南医療センターに赴任いたしました。私は、今ではどの施設でも低侵襲手術として一般的に行われている腹腔鏡下胆嚢摘出術を1991年にはじめて行う機会に恵まれ、それ以来、内視鏡外科手術の低侵襲性、メリットを追い続けてまいりました。ロボット手術については、神戸大学食道胃腸外科在職中の2011年に胃癌に対するロボット支援下胃切除術を開始し、現在、指導的資格である胃癌に対するロボット支援下手術のプロクターを取得しています。
当院では2023年9月から手術支援ロボットdaVinci Xiによるロボット支援下手術を消化器外科、産婦人科、泌尿器科領域で開始し、これまで直実に症例数を増やしています。今後も、低侵襲ロボット手術センター長として、安全性を十分に留意しながら、患者さんにとってメリットの大きなロボット手術を広めていきたいと考えています。