脳神経外科治療の対象となる疾患は、脳、末梢神経、脊髄と多岐にわたりますが、ここでは、病気の発症のタイプにより3つに分類し、その代表的な脳の病気と治療方法について簡潔に説明します。
ページ内コンテンツを見る
救急搬送または救急受診を要する疾患
脳血管障害
脳卒中ともいわれます。脳血管は多臓器に比べ出血しやすく、基礎疾患(高血圧、糖尿病、高脂血症など)や加齢を原因として血管の閉塞や出血による急激で重篤な症状を来します。
1)脳内出血
脳内に出血を来した状態です。小さい場合は点滴で治療しますが、大きな出血の場合、血腫を除去する必要があります。【図3】
<治療方法>
開頭脳内血腫除去術、内視鏡的脳内血腫除去術、定位的脳内血腫除去術
2)くも膜下出血(脳動脈瘤破裂)
主として脳動脈瘤(脳血管の病的なふくらみ)からの出血が原因です。強い頭痛や突然の意識障害を来します。出血源を止血するために、緊急手術を行う場合が多いです。また、手術後は二次的な脳の障害を予防または治療するために集中治療室で厳重な点滴治療を行います。【図4】
<治療方法>
破裂脳動脈瘤に対する開頭脳動脈瘤クリッピング術/脳動脈瘤コイル塞栓術
3)脳梗塞
脳血管が血栓により閉塞することによって末梢の脳組織への血流が途絶え、急激に重篤な症状(手足の麻痺やろれつ障害など)を来します。脳梗塞発症から早期の限られた状態に対して、積極的につまった血栓を溶かす点滴治療を行います。大きな血栓の場合、カテーテルを用いて、血栓を吸引回収する治療を行います。【図5】
<治療方法>
脳梗塞急性期の脳血栓溶解療法(遺伝子組み換えt-PA(組織プラスミノーゲンアクチベータ)静注療法)/機械的脳血栓回収療法
頭部外傷
転倒転落や暴力、スポーツ外傷などによる頭蓋骨や脳組織の損傷です。軽い脳震盪から重篤な意識障害を伴う状態まで様々です。まずは全身状態を安定させるために初期対応を行います。次いで、救急外来から画像検査室に直通し、迅速に検査を行い、投薬や手術治療を行います。
外傷による損傷部位、出血部位により下記のように分類されます。
- 急性硬膜下血腫
- 慢性硬膜下血腫
- 急性硬膜外血腫
<治療方法>
外傷性頭蓋内出血に対する穿頭術/開頭術、開頭減圧術、頭蓋内圧モニタリングを併用したバルビタール昏睡療法
外来受診を要する症状を有する疾患
主に頭痛、手足の筋力低下や感覚障害、物忘れ(認知機能障害)などの比較的ゆっくりと増悪する症状であることが多いです。
脳腫瘍
頭蓋骨または頭蓋骨内に生じた腫瘍をまとめて脳腫瘍と呼びます。代表的な脳腫瘍に以下のような種類があります。【図6】
- 髄膜腫:脳・脊髄を包む硬膜から発生する。
- 神経膠腫:脳実質から発生する。
- 下垂体腺腫:ホルモンを分泌する脳下垂体から発生する。
- 神経鞘腫:神経を包む膜から発生する。
<治療方法>
脳腫瘍摘出術/生検術、脳室内腫瘍に対する内視鏡的生検術、悪性脳腫瘍に対する補助療法
脊髄の病変
脊髄は脳と手足をつなぐ太い電線のような組織です。脊髄病変の一部は脳神経外科治療の対象となります。
- 脊髄腫瘍:脊髄や脊髄を包む膜から発生した腫瘍です。
<治療方法>
脊髄腫瘍摘出術 - 脊髄血管奇形:やや稀な疾患ですが、手足のしびれや筋力低下として見つかることがあります。
<治療方法>
脊髄血管奇形摘出術、脊髄血管奇形に対する血管内治療
機能的脳神経疾患(三叉神経痛、片側顔面けいれん、てんかん)
顔面の痛みやけいれん(顔面のぴくつき)が生じることがあります。痛みやけいれんの程度が強い場合や、内服薬や神経ブロック(局所麻酔)で効果が得られない場合に手術対象となる場合があります。てんかん(四肢のひきつけ)は基本的に薬物治療ですが、てんかんを起こす明らかな原因がある場合、手術対象となります。
<治療方法>
神経血管減圧術、てんかんの焦点切除術
特発性正常圧水頭症
脳内に脳脊髄液が異常に貯留した状態です。特発性とは「原因不明の」という意味で、高齢者の認知症や歩行障害(小刻み、がにまた歩行)の原因の一つです。髄液排除試験(脳に貯留した髄液を安全に腰部から排出して効果を判定する試験)により改善する場合に手術治療の対象となります。
<治療方法>
水頭症手術(脳脊髄液シャント手術)
無症状であるも治療や経過観察を要する疾患
無症候性脳血管障害
脳ドックでの検査やスクリーニング(ふるい分け)検査により、偶然、脳や頚部の血管病変が見つかる頻度が増えています。これらは、病変があるからといって、必ずしも治療の対象となるわけでなく、基礎疾患の管理や経過観察のみを行うことも少なくありません。しかし、将来、何らかの脳疾患を来すリスクが高いと判断された場合は、精密検査や治療をお勧めすることがあります。
1)無症候性脳動脈瘤
将来、破裂の危険性の高い病変(大きさ、形、発生部位など)が治療の対象となります。【図7および8】
<治療方法>
脳動脈瘤に対する脳動脈瘤クリッピング術/脳動脈瘤コイル塞栓術
2)無症候性頚部内頚動脈狭窄症
頚部血管の狭窄は脳梗塞の危険因子です。狭窄の程度や狭窄部のプラークの性状を評価し、脳梗塞のリスクの高い病変は治療の対象となります。【図9】
<治療方法>
頚部内頚動脈の内膜剥離術/頚動脈ステント留置術
3)無症候性頭蓋内血管狭窄症/もやもや病(両側内頚動脈狭窄症)
頭蓋内血管の狭窄に対する治療方針は未だ定まったものはありません。狭窄の程度や脳血流量の評価を綿密に行い、個々の病態に応じた治療方針を決定しています。もやもや病は脳血管がゆっくりと狭窄してゆく原因不明の疾患で、日本人を代表としてアジア人に多発しています。脳梗塞や脳内出血を来した場合には治療の対象となることも多いのですが、無症状では、脳血流量の評価などを綿密に行い、治療方針を決定しています。【図10】
<治療方法>
脳主幹動脈狭窄症に対する脳血管バイパス手術/経皮的脳血管形成術、もやもや病に対する直接的および/または間接的血行再建術
4)硬膜動静脈瘻や脳動静脈奇形
やや稀な疾患ですが、将来の脳内出血、静脈灌流障害やてんかんの危険性がある場合に治療対象となります。
<治療方法>
硬膜動静脈瘻に対するコイル塞栓術/開頭シャント離断術、脳動静脈奇形に対するコイル塞栓術やナイダス摘出術