乳がん患者さんの治療では、手術前後に点滴で抗がん剤治療が⾏われることがあります。
この際に使用する抗がん剤治療では脱⽑はほぼ必ず発⽣し、抗がん剤投与後2-3週間で髪がほぼ完全に抜け落ちることが一般的です。個⼈差がありますが、脱⽑は抗がん剤治療を受ける患者さんが最も高頻度でかつ強く苦痛を感じる副作⽤であると報告されています。
これまでさまざまな方法で脱毛予防が試みられてきましたが、残念ながら成功した方法は無く、ウィックでカバーし、自然に脱毛が回復するのを待つ以外、対処する方法がありませんでした。中には抗がん剤治療が終わってからも脱毛の回復が不十分でウィックが手放せなくなり、いつまでも脱毛で苦しむ患者さんもおられました。
頭⽪冷却療法は、キャップを⽤いて化学療法施⾏中の頭⽪を冷却し⾎流を低下させることで、⽑根に対する薬剤のダメージを減少し、脱⽑を抑制する方法です。今から約40年前にも一時色々な方法で頭⽪冷却療法が試みられましたが、期待したような脱毛予防効果が得られず、施行されなくなっていました。その後頭⽪冷却装置の開発、改良が進み、徐々に脱毛予防効果が見られるようになり、本邦でもこの数年の間に頭⽪冷却装置の導入が徐々に進んできました。まだ完全に抗がん剤による脱毛が予防されるわけではありませんが、平均的な効果として脱⽑量が50%ほどで留まり、発⽑までの期間が短縮され、脱毛の回復が促進されるようになっています。
本邦でもこの数年の間に頭⽪冷却装置の導入が徐々に進んでおり、今回、兵庫県下では2番目の導入施設として、当院でもこの頭⽪冷却装置の導入を開始しました。抗がん剤治療を受ける全員の方にこの頭⽪冷却療法を受けていただきたいのですが、個人購入する場合の冷却キャップが高額であること、施行に当たって保健適応がなく、毎回、入院での化学療法が必要になることなどの問題もあります。初回は無料で体験できることも説明させていただいた上で、患者さんには継続するかを選択してもらっています。
最初にも記載しましたが、抗がん剤治療に伴う脱毛は、強く、時に長く患者さんを苦しめます。脱毛を予防できる可能性のある一つの選択肢として、頭⽪冷却装置が役立つことを期待しています。
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甲南医療センター
乳腺外科 部長
髙尾 信太郎
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