今回は産婦人科から新生児聴覚スクリーニング検査に対する取り組みについて紹介します。先天性の難聴は発見が遅れると聞く能力、話す能力に障害が出ます。早期発見が重要なため新生児聴覚スクリーニング検査を受けること、そして結果が要精査(リファー)である時のフォローアップ体制の整備が望まれています。
1-3-6ルールについて
米国では1-3-6ルールとして、生後1か月目までに聴覚のスクリーニングを実施、3か月目までに精査を完了し難聴を診断、6か月目までに補聴器などの装用を開始する、ということが2000年の時点で小児科学会を中心にガイドライン化されています。6か月目までに正しく補聴器などの支援が開始されれば、その後の言語能力は正常に獲得され特別支援学校でない通常の学校へ通うことも可能です。本邦でもこのルールが参考とされて達成に向けて全国的に新生児聴覚スクリーニングの普及、運用が目指されています。甲南医療センターでは同意を得て新生児聴覚スクリーニング検査を分娩入院中に実施し、結果が要精査の場合精査機関に紹介しています。
神戸市の例と新生児聴覚スクリーニング管理システムの整備について
新生児聴覚スクリーニングで要精査となるのが1%で、精査対象児の10%が加療の対象となります。例えば神戸市の2021年の出生数は9537人でしたが、これを仮に1万人とした場合、毎年100人がスクリーニングで要精査となり、そのうち約10人が加療の対象となる概算です。つまり、毎年この10人の新生児が漏れなくフォローされ加療されないと、防げるはずの言語能力の獲得に支障を来し、避けられたはずの障害が発生することになります。これは看過できない問題で一刻も早く漏れなくフォローされるシステムを整備することが必要です。
神戸市は「聴覚障害児支援中核機能モデル事業」の一貫として、中央市民病院内に新設された総合聴覚センターを中心に、新生児聴覚スクリーニング管理システム整備に取り組まれています。整備後は分娩施設から要精査児情報をセンターに個人情報を保護した上で連絡することにより、精査機関への斡旋と同時に行政への報告となり、遅滞なく精査、加療されていくことになります。スピード感を持ったシステムの整備が望まれます。
産婦人科の立場から今後の課題
1-3-6ルールの最初の部分を担うのが産婦人科医の勤めであり、スクリーニングを100%おこない、要精査児を遅滞なく精査機関へ紹介することが望まれています。そのためには、3ヶ月以内に精査を終えられるように精査施設を受診することを両親に正しく伝えることも大切です。
要精査児が精査機関に受診されているか行政においてタイムリーに把握されていない現状ですので、今回の神戸市による新生児聴覚スクリーニング管理システムの早期の整備、運用が望まれます。これにより、現在漏れが最もおこり得る過程と考えられる要精査児の受診が滞っている場合に、神戸市から保護者へ受診を促す連絡をすることも可能となります。さらに兵庫県においても同様のシステムが整備されることが望まれます。