眼は網膜でとらえた光を生体信号に変換して大脳の視中枢に情報伝達します。この信号の通り道となるのが視神経で、この部位に障害をおこすと視力低下、視野欠損などの障害がおきます。視神経の疾患の中でも比較的頻度の高い視神経炎はながらく原因が不明とされていましたが、近年、視神経炎症例のなかに血清中の抗アクアポリン4抗体陽性を認めるグループが存在することが明らかになり、これらを抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎と呼ぶことになりました。
アクアポリンとは
アクアポリンは細胞膜に存在し、細胞膜内外の水分子の移動を調整する分子です。その役割の重要性から発見者は2003年にノーベル化学賞を受賞しています。アクアポリンは複数のタイプが存在していますが、アクアポリン4は眼、脳などの中枢神経系に多く存在していることが明らかになっています。
抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の症状と診断
抗アクアポリン4抗体陽性視神経は片眼あるいは両眼に誘因のない重篤で急激な視力障害で発症することが多く、わが国では中高年の女性に好発することが知られています。半数の症例では眼球の深部痛や運動痛を伴います。眼の症状以外にも腕や脚のしびれや脱力、排尿障害などの脳脊髄症状が伴うこともあり、近年では視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)の1病型と考えられています。また、膠原病に関連した自己抗体が陽性になることも知られています。
上記のような眼症状や脳脊髄症状の存在、血清中の抗アクアポリン4抗体陽性、MRIにおける視神経や脊髄の高信号などの存在によって抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎と診断されます。
抗アクアポリン4抗体陽性視神経の治療法
一般的な視神経炎は最終的な視力予後が良好で、ステロイド治療で病期が短縮することが知られています。これに対して抗アクアポリン4抗体陽性視神経ではステロイド治療に抵抗することが多々あり、ステロイド治療無効例の急性期には透析療法(血清交換療法)や免疫グロブリン大量療法などが試みられます。また視神経脊髄関連疾患は高い再発率が危惧される疾患のために抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の症例も再発抑制のためにステロイド内服や免疫抑制剤の長期服用が推奨されています。近年では再発抑制に有効な新薬が使用可能となり治療の選択肢が広がっています。
甲南医療センターにおける抗アクアポリン4抗体陽性視神経の診療体制
抗アクアポリン4抗体陽性視神経、視神経脊髄炎関連疾患には眼科だけではなく、脳神経内科、透析センター、免疫内科など複数の診療科、部門を横断した診療体制が必要になります。幸いにして当センターは抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の診療に必須な診療科がすべて設置されておりますので当疾患の患者様のお力になれるものと自負しております。